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YELL  VOL.21~社会の第一線で活躍するそろばんOBからの応援メッセージ~ from 松原 千晴 

YELL  VOL.21
~社会の第一線で活躍するそろばんOBからの応援メッセージ~
from 松原 千晴

松原千晴氏

<略歴>※全珠連会報第183号(2020.11)に掲載時点
滋賀県近江八幡市生まれ
京都府立医科大学卒業
京都大学大学院博士課程前期修了
今春まで京都府立医科大学にて助教を務め,現在は聖泉大学にて非常勤助手として勤務
地域活動では向日市子育て応援団の副代表を務めている

珠算がつなぐ過去と未来

 この度、恩師である森廣次先生にこのようなご縁をいただきましたこと、本当に感謝申しあげます。私でよいのかと心の底では迷いつつ、私だから伝えられること、今だから伝えるべきことは何だろうと考える機会となり、改めてこれまでの自分を振り返るきっかけとなりました。今に至る私の原点がそろばんにあり、京都大学大学院博士課程前期を修了したのち、結婚・出産を経て2児の母でありながら、大学で医療職を育成する教育者、研究者としての道に通じていること、今後の展望などについてお話をさせていただきます。

そろばんとの出会いと歩み
 お世話になった塾は、滋賀県近江八幡市の森珠算塾、先生は森廣次先生でした。今春、滋賀へ引っ越し、年長の子供に珠算を習わせたいと思い、先生のもとへ伺いました。すっかりご無沙汰していましたが、先生は私を覚えてくださっていました。また、教室には「継続は力なり」の額があがっており、あの頃から変わらない雰囲気もどこか懐かしく、珠算人生の記憶が鮮明によみがえりました。
 私は、母が森先生の珠算教室で指導をしており、それに同行する形で珠算の道に入りました。幼少期から始めたこともあり、最初は数字の練習、数の遊びという感覚でした。初めてそろばんを持ったとき、鉛筆を持ったままスーッと珠を弾けず、小さな指で何度も練習しました。先生の「よーい、始め!!」という声掛けで一斉にピーンとした空気の中、パチパチとそろばんを弾く音に教室内は何ともいえない緊張感が漂っていたような気がします。そして、いつしか、そろばんの珠や数字をイメージで捉えるようになり、その魅力からそろばんに没頭する日々がやってきます。これもひとえに、森先生が私の長所や短所を鋭く見抜き、ときに厳しくときに優しくご指導してくださったお陰です。日々こつこつと机にむかい、科目ごとに短時間集中するインターバルトレーニングの姿勢が身につきました。検定試験では努力の成果が「合格」というかたちとなり、合格証書と合格シールが増えるうれしさ、小学生だった私にとって宝物のような感じでした。もう一つ、試験を受けることで緊張感に打ち勝つ力を習得し、「試験慣れ」は高校や大学受験にも役立ちました。また、さまざまな大会に出場することで、ライバルとの競争によりときには勝つ達成感や負ける悔しさを覚え、次回への目標に向かってモチベーションをあげ、練習に励むことができました。

訪米使節団によるヒトの輪と語学力
 その積み上げの成果は小学生での段位の習得に結びつきます。中学一年生のとき、森先生が推薦してくださり「訪米使節団」に選出されました。訪米使節団とは、日本が世界に誇るそろばんをさらに広げるため、日本の小・中・高校生の優秀なそろばんの仲間たちが集まり、アメリカの公立小学校を訪問し、そろばんを通じた交流を図るというものです。全国から集まった使節団員は、一般では入れない首相官邸を表敬訪問したのち渡米しました。現地では、そろばんのデモンストレーションやそろばんの使い方などを指導しました。語学力が十分でない私にとって、教える際の言語の壁は高かったと記憶しており、新たな自分への挑戦として英語を自主的に学ぶ意欲が湧きました。英語のスキルを磨くことを目標に、英語検定やTOEICなどで自己研鑽していたこともあり、今では国際学会での発表や英語の論文の読解、執筆に役に立っています。その他、観光もあり文化・自然・語学など異国の環境に触れることができました。また、異国の地での共同生活により新たな人間関係が構築されたことは一番の醍醐味です。帰国後、現在も使節団員の仲間との関係は続いており、近況報告や相談、災害が多い中でも気遣いをして助け合える仲間です。これら全て、そろばんを通してグローバルな視点に触れ、感じ、学び取れたことであり、かけがえのない貴重な経験でした。

大学教育と小学校教育―そろばんにねがうこと―
 大学教育に携わり、教育は時代を経てカリキュラムシフトしていると実感します。高度情報化社会となり、グローバル化・情報化や人工知能も普及し、社会全体が大きく変わろうとしています。教育では、主体的・対話的で深い学びの視点からアクティブラーニングが注目されています。得た学びをもとに、日常生活で出会う物事に興味関心を持ち他者と会話し協同することで学びを深めながら解決していく。そのためには、適応力や表現力を含むコミュニケーション能力、問題解決能力が必要となります。研究においても同様に、社会で起こる現象や人間の事象を客観的に捉え、より広く深く答えを追求する努力を積み上げる過程でさまざまな分野の専門家が協同し、社会貢献につなげていきます。
 先日、森先生とそろばん教育の重要性について話をしました。会報誌を拝見したところ、そろばんOBの方々がさまざまな分野で素晴らしいご活躍をされており、そろばんの魅力を多くの教育者に知っていただきたいと話が盛り上がりました。近年、小学校でも道徳教育から思考力・判断力・表現力をバランスよく身につける、生きる力の教育へとシフトしています。算数では、数量や図形について基本的な知識・技能を身につけ、日常の事象を論理的かつ具体物を用いた数理的な処理により捉えることを目標とし、第3~4学年の内容にそろばんによる数の表し方、計算方法の重要性にふれています。電卓、スマホがあれば計算はできますが、なぜそろばんが教育に必要か。それは、そろばんが単なる計算道具ではなく、より広義に脳科学の視点からも解釈されているからではないでしょうか。リズミカルな音は聴覚から入り側頭葉を活性化します。昔から、読み書きそろばんといわれますが、これほどにも速く細かく指を動かす作業はそろばん特有であり、繰り返すことにより大脳皮質が活性化します。右脳はパターンの記憶、感覚的な音や空間の把握による珠算式暗算、左脳は数字を言語で認識、計算など理論的思考に結びつく計算式暗算といわれ、両脳が活性化します。つまり、脳の大部分がバランスよく刺激を受けることにより、「集中力」「記憶力」「判断力」「処理能力」「想像力」などさまざまな能力の習得につながります。そろばんに触れるということで、そろばんを卒業した後もさまざまな分野での勉強や社会に出たときに習得した能力が相乗効果として現れるのです。実際に、私は研究に没頭する日々の中で、自由な発想、判断推理、統計学的処理、その他にも計画的に論文を読み進め、国内外の学会発表、論文執筆など得られた成果をコツコツと積み上げていくことに大いに役立っていると感じます。
 是非、そろばんが注目され、すべての子供たちがそろばんに触れ、一人でも多くの子供たちがそろばんに興味を持ち、そろばんを通じて活躍できる人材が育成されることを願っています。

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