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YELL VOL.17 ~社会の第一線で活躍するそろばんOBからの応援メッセージ~  

YELL  VOL.17
~社会の第一線で活躍するそろばんOBからの応援メッセージ~
from 高山 辰則

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<略歴>※全珠連会報第179号(2019.7)に掲載時点
・1974年生まれ
・2001~2014年 IT業界にてプログラマとして勤務
・2008年より兵庫県小野市在住
・2014年~ 伝統工芸士 宮本一廣氏の下にそろばん組立職人として弟子入り


 2014年夏、私はこれまで働いてきた業界から全く正反対であるそろばん組立職人としての一歩を踏み出しました。
 
 「自分の住む街とは、一体どういう街なんだろう」

 そんな疑問からことが動き始めました。小野市にはあまり長く住んでいたわけではないので、それほど詳しくはありませんでした。これから永住する予定である街なので、知っておいて何一つ損はありません。

 いつもとは違った視点で街を歩くと、「そろばん」というワードの多さに気づきました。そう、小野市は「そろばんの街」だったのです。

 そのとき、ほんの数か月ほどではありますが父にそろばんを教えてもらった記憶、あまりよい記憶ではないのですが、よみがえりました。いまでもまだ実家に置いてあるそろばんを手に取って見てみると、なんとそれは小野市で作られたそろばんでした。これからこういったそろばんを自分が作るのかと思うと、胸がドキドキしてきました。

 さて、実際にそろばんを作ってみると、自分が思っている以上に手間のかかるものだとわかりました。見た目は単純そうに見えるのに、簡単には完成しない。そろばんに対する私の考え方が大きく変わりました。

 その辺りに放置していそうな粗雑な小さな木から、それは指先で愛でたくなるくらいまで磨き抜いて仕上げます。そのほとんどを手作業で行っていることに驚きました。機械を使うことはあるのですが、機械を使ったからといって自動でできる作業はありません。こちらが機械に対して、何かしらのアクションを起こさなければなりません。我々の想像を超えた手間のかかりすぎる作業ばかりなのです。

 だからといって手を抜いてしまっては使う方に失礼です。指先の痛みに耐え、手の感覚を研ぎ澄ませながら日々の修業を重ねていきました。

 ものづくりは、「1+1=2」とはなりません。出る答えが毎回微妙に違うのです。それをできる限り同じ答えに近づけていくように作業をしているのですが、なかなか思うようにできません。

 私の師匠がよく言う「職人は、一生勉強や」という言葉が徐々にわかってきました。60年のキャリアから発せられる言葉に重みを感じました。
  
 計算器具としてのそろばんは正しい答えが一つになりますが、製品としてのそろばんは100人いれば100通りの答えがあってもおかしくないのです。全ての人に気に入ってもらえるようには作れませんが、できるだけ多くの人に気に入ってもらえるように作っていこうと、日々努力をしています。

 最近になって引退される職人さんがポツポツ出始めてきたので、一人ひとりにかかるそろばん製作に対する責任が増してきました。一層気を引き締めて修業をしていかなければならないなと感じています。

 そろばんの製作とは別に、実演や体験など外に出ることが多くなりました。私は人前で話すことが極度に苦手なのです。今までもできるだけ人前に出て話をするのを避けて過ごしてきたくらいです。知っている人の前でも緊張するのに、それが知らない人の前となると心臓が口から出てくるかと思うほどです。

 嫌だからといって逃げていては何も進みませんし、変わりません。自分の発した言葉がどうだったのかを毎回振り返って、よかったところは次もそのレベルを保ち、悪かったところは修正して次につなげる、ということを繰り返してきました。

 なんと私の師匠は「作ってしゃべれる職人(笑)」なので、どのように話せばよいのかも丁寧に教えていただくことができました。師匠からは、どちらかというと失敗談を聞くことの方が多く、何もできない私には参考になることがたくさんありました。

 それを踏まえ実践練習を何度もすることで、日増しに話すことは楽になってきましたが、未だに苦手意識は取れないままです。これは人生経験と努力を積んでいけば変わっていくのかな、と前向きに考えています。

 組立職人として、そろばんの枠の作りも見て欲しいなと思うことが多々あります。ただ、使う人にとって重要なのは珠の動きなのでそれは仕方のないことであると理解はしています。ただ、自動的にできあがるものではないという視点から、少しだけでもいいので丁寧に手をかけた外面の仕上げを気にかけてもらえるとうれしいです。

 現在は、数年経たないうちにそろばん職人情勢が変わっていってもおかしくない状況になってきています。職人が減ると、今までのように簡単にそろばんが手に入らないかもしれません。そうなるまでに、私は次の世代に伝えられる技術を習得できるように修業していきたいと思っています。

 私がそろばん組立職人になって思ったことですが、今までやってきたことはもちろん何も無駄にはなっていません。
 ・現状を把握すること
 ・現在から未来へ見通しを立てて行動すること
 ・努力すること
 ・継続すること
 ・諦めないこと
たとえ業界が違えども、根底は同じです。努力をすれば必ず実を結ぶとはいえませんが、目的を達成できた人は何かしらの努力をしていると思います。ただ、駄目だと思ったらスパッと諦めて転換することです。損切りは大切!

 これからも色々な場所でそろばんを伝えていくことになると思います。たくさんのそろばんの使い手の方々と、いつかどこかでお会いできることを楽しみにしております。

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