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YELL~社会の第一線で活躍するそろばんOBからの応援メッセージ~  

YELL  VOL.15
~社会の第一線で活躍するそろばんOBからの応援メッセージ~
from 大塚裕幸(東京都)

20180223大塚裕幸

<略歴>
北海道砂川市生まれ
北海道大学大学院修士課程を修了後、NTT及びNTTドコモの研究開発部門に勤務
1992年に北海道大学から無線通信に関する研究で博士(工学)の学位を取得
2010年から工学院大学情報学部情報通信工学科の専任教授
珠算十段、第一級無線技術士の資格を有する
著書に「基本からわかる情報通信ネットワーク」

珠算はヒトを進化させる
 珠算の競技選手を引退したのは1982年ですから、今から35年前になります。その後、故郷の北海道を離れ東京の企業に27年間、そして都内の大学で8年間教鞭をとっています。今回、本会報に寄稿する機会をいただきましたので、珠算から始まった人生経験を振り返りつつ、珠算で得た教訓をお伝えしたいと思います。

 私は小学校4年生から砂川市の櫻田珠算学園で櫻田寅衛先生のご指導を受けました。小学校6年生のときに競技選手に抜擢され、それからは厳しい練習が毎日続きました。競技選手になってすぐに珠算検定試験1級を満点合格し、地元の新聞に顔写真付きで紹介されました。これが選手としてやっていく自信が持てた最初のときでした。珠算種目の中で、私が得意としていたのは暗算でした。櫻田先生は「読上暗算の日本一の選手を作る」ことが目標で、その練習に多くの時間を費やしました。実をいうと、私は手先があまり器用ではありません。従って乗算は苦手でした。見取算、伝票算は完全に暗算で、除算は幾分暗算を利用していました。商業実務の内容を含む応用計算も得意でした。珠を弾くスピードよりも問題を解くアプローチが入っていたので、私には向いていました。

 暗算は頭の中でどのように計算するのがよいかで悩んだことがありました。基本は、頭の中にそろばん珠をイメージしアナログ的にそろばんを弾くのですが、私の悩みは、右脳、左脳のどちらを使って計算するかです。私の経験では、読上暗算については右脳を使う方が調子がよかったです。逆に暗算種目(乗算、除算)は左脳を使っていました。もちろん感覚的なもので確固たる自信もありませんでしたので、どちらが正解ですかと先生には相談できませんでしたが。そうこうしているうちに、高校生のときに全日本珠算選手権大会の読上暗算で優勝しました。櫻田先生の目標を達成したわけです。ただ運もありました。開催場所は北海道の札幌市でした。私は蒸し暑いのが大の苦手で、本州での競技大会は一苦労しました。特に、暑い8月に行われる全日本珠算選手権大会は意識朦朧状態でした(笑)。大学生のときにもう一度、全日本珠算選手権大会の読上暗算で優勝するのですが、開催場所は比較的涼しい仙台でした。このときは、12桁の暗算に正答しました。優勝のご褒美として、そろばん日本一の木村氏とともに中国に派遣をしていただきました。この中国派遣は、後述しますが何かの縁と今でも思っています。また、大学生のときに最高位の十段位を獲得しました。競技生活は残り少ないなと感じ始めていたので、これまでの努力が実ったと、心底喜びました。

 さて、珠算から何を学んだのか、社会人になってその経験がどのように役立っているかについてお話ししたいと思います。

 まずは、珠算によって単純に算数、数学を好きになった、ということです。小学生のときは、算数の授業で出された計算問題をいつも一番で答えていました。もちろん先生に褒められるのでますます算数が好きになります。では中・高になってどうなるかというと、当然ながら珠算とは違う要素がたくさん入ってくるので、そう簡単ではありませんが、算数が好きだ、計算が得意だ、というアドバンテージがあるため比較的スムースに数学に入っていくことができたと思います。さらに、珠算は算数・数学だけではなく人間の能力全般を間違いなく高めます。脳内の指令により指で球を弾くこと、暗算で脳細胞をコンピュータのように使うことによって脳内を活性化し成長させます。そういう意味で珠算は極めて優れた教育手段の一つと考えてよいと思います。人間は一般的に脳の能力のほとんどを使っていないという研究論文もあります。珠算は間違いなく脳の能力を引き出します。私が大学に進学できたこと、博士の学位を取得できたこと、一流企業で研究開発に携わることができたこと、大学教授になれたことは、珠算・暗算によって脳が鍛えられたことだと確信しています。おそらく、櫻田珠算学園に入塾していなければ、何一つとして実現できなかったと思います。そういう意味で、私は珠算に大変感謝しています。

 2点目は、精神的な強さが身についたということです。これはどの競技にもいえることですが、競技大会でよい結果を出すためには、能力もさることながら精神的な強さが必要です。これはすぐに身につくものではありませんが、経験を重ねることによって、あるいは自信が生まれることによって精神的な強さが身につき、平常心で競技大会に臨めるようになりました。競技選手を始めて最初のローカルな競技大会で、会場の雰囲気にのまれ、また精神的に浮足立ってしまい散々な結果になり、ずいぶんと落ち込んだ記憶があります。これを契機に、いかに平常心で競技に集中できるかが一つの大きなテーマになりました。大学受験、社会人になってからの面接、資格試験、国内外での研究発表などは、読上暗算で日本一になったという自信、珠算で養われた精神的な強さがあったからこそ、うまくいったと思っています。私は海外大学への研修も含めて約7年間、海外で仕事をしていました。英会話はさほど得意ではないので、英語で交渉するとき、あるいは外国人と一緒に食事をするときは緊張しましたが(今でも緊張します)、やはりここでも珠算で身につけた自信、精神的な強さが平常心をもたらしてくれました。読上暗算日本一のご褒美で中国に派遣されました、と先に書きましたが 、中国の北京にも赴任しました。北京赴任の話があったときは、珠算との因縁を強く感じ何の抵抗もなくすんなり受け入れました。現地の社員に、暗算を披露し、とても驚かれました。カナダのオタワ、UK(イギリス)のロンドン赴任中にも現地の方に暗算を披露しました。いずれも驚愕(amazing)されました。珠算、暗算は世界的にみても卓越した計算手法で、これほど優れた技術は世の中に無いと確信しています。珠算、暗算はヒトを進化させます。もっと世界に普及させるべきだと思います。

 もう一つ重要で忘れがちなのは、珠算は協調性を高めることに役立つということです。珠算は個人の競技と思われがちですが、一緒に練習する先輩、後輩とお互いに意識を高めあう、場合によっては指導する、秘技を伝授することが行われます。塾、競技会場では周りの人に迷惑をかけないようにする。これらは協調性そのものです。社会人になると、この協調性がとても重要になり、個人の一つの評価項目になります。私も社会人になって競技選手時代に培った協調性の恩恵を受けています。珠算は単に計算スキルを向上させるだけではなく、この協調性の資質を向上させることを、もっとアピールしてはどうかと思います。

 現在は大学で学生の指導を行っています。珠算では指導を受ける立場にいましたが、今はその逆で学生を指導する側です。指導を受けていたときは先生に対して理不尽だなと思うときも多々ありましたが、今はそのときの先生の気持ちがよく理解できます。そういう意味でも、珠算での経験、教訓は、引退後35年たった今でも私の人生を支えています。

 この原稿を書きながら、久しぶりに現役時代を思い出しました。そしてお世話になった先生方への感謝の念に堪えません。砂川で厳しくそして温かくご指導くださった櫻田先生、そして冬の毎朝、塾内に石炭ストーブを用意してくれた櫻田先生の奥様。読上をしてくださった西田清吾先生(現、苫小牧市 珠道館長)、大学時代に札幌でお世話になった棚田忠美先生(故人、ご冥福をお祈りいたします)。最後になりますが、世界中の珠算をされている方、競技選手、そして指導者の方々のますますのご発展をお祈り申しあげます。

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