第55回全国珠算研究集会 開催 

杜の都・仙台市でそろばん教育 探求
第55回全国珠算研究集会 開催
       
 平成20年12月26日、第55回全国珠算研究集会が小雪舞うこの冬一番の寒さの中、全国各地から約450名の珠友が集結し、宮城県「仙台市太白区文化センター」において盛大に開催された。(社団法人全国珠算教育連盟主催、文部科学省・宮城県・宮城県教育委員会・仙台市・仙台市教育委員会ほか後援)

講師・発表者と役員との記念撮影=仙台市「太白区文化センター」
※講師・発表者と役員との記念撮影=仙台市「太白区文化センター」

「美味し国・宮城県 伊達な旅に誘われて関係者450名が参加

 全国有数の城下町として栄え、今日まで日本文化・経済を支え、「杜の都」として「みちのく一」の都市にまで発展してきた宮城県仙台市。少し足を運べば、青葉城、広瀬川、そして百万都市仙台市を有名にした、この季節の風物詩「光のページェント」が夜の街を光眩い世界へと誘う。

そろばん学習から生まれる基礎学習と教養

 定刻9時30分、生駒副理事長の開会のことばに続き、国歌斉唱、全珠連歌斉唱の後、梶川理事長が「自分たちの使命である珠算教育を通して日々研鑽を忘れず、子どもたちを指導する努力を重ねよう。新時代にふさわしい指導を求め、本日の研究集会が大いに役立つことを期待する」と挨拶した。
 続いて文部科学省の西村修一氏が「60年ぶりの教育基本法改正により、これからの子どもたちは変化の対応に順応し、伝統文化を残し、新しいことを吸収する力を身に付けることが大切となる。
 また、高等学校商業科においても、現状の『ビジネス実務』で指導されることが決まり、計算を通して社会人としての望ましい姿を形成するように教育してほしい。
 基礎・基本は大切であり、それがあって生きる力が生まれる、そろばん学習から基礎学力を養い、将来への教養を高めるための確かな学力向上を期待している」と激励の挨拶を行った。
 村井宮城県知事(代理)・中野衆議院議員・有村参議院議員ほかの祝辞が披露され、来賓紹介と中曽根弘文参議院議員(外務大臣)を始めとする多くの祝電が披露された。
 開催地・吉田支部長の歓迎挨拶後、澤田研修学教委員長から研究助成論文審査経過報告、研究集会発表講師紹介、日程説明の後、午前10時30分から講演が開始された。

川島隆太教授の講演 研究発表・特別発表

 今回の講演は東北大学加齢医学研究所教授川島隆太氏を講師に「脳活動の仕組みの解明・研究と応用について」がテーマ。巧みな話術で、独自の理論を披露し、有意義な内容であった。
 昼食後は研究発表「生徒の伝えるそろばんの歴史」(大阪府・大垣憲造氏)、特別発表「わかる・できる・楽しい『小学校のそろばん授業』のススメ」(研修学教委員会委員・岡久泰大氏)が参加者の心をひきつける発表を行った。  
 午後4時、澤田研修学教委員長の挨拶、次回開催地・香川県の川田支部長挨拶、村上副理事長の閉会のことばで、全日程が無事終了した。

「脳活動の仕組みの解明・研究と応用ついて」 

第55回全国珠算研究集会 講演

「脳活動の仕組みの解明・研究と
          応用について」


  川島隆太 東北大学加齢医学研究所教授 

「脳を使う」教育とは「手を使う」教育・川島東北大教授  「脳を使う」教育とは「手を使う」教育・川島東北大教授
※「脳を使う」教育とは「手を使う」教育・川島東北大教授

まず脳を知る

 宮城県の観光と教育の仕事や兵庫県の小野市での仕事等多方面にわたって活躍している川島教授は「脳の健康を維持するにはどうすればよいか」を研究している。そして「なぜ、脳を知らなければならないのか」から講演は始まった。
 「なぜ脳を知らなければならないか、というと、人の認知や経験は絶対ではないからです」。脳が作り出す視覚も、経験が邪魔をして、明るさや色を違ったものにみせる。(画面ではすっかりだまされてしまう。)
 脳は場所によってまったく違う仕事を分担している。前頭葉(運動)・頭頂葉(触覚)・後頭葉(視覚)・側頭葉(聴覚)。
 右脳・左脳というのは脳神経外科から出た言葉で、人間とは前頭前野が発達した動物であるといってよい。

前頭前野を鍛える

 子どもたちの教育・生活の質に役に立つ場所が前頭前野である。前頭前野は①思考・創造②行動・情動の制御(我慢する)③コミュニケーション(顔の表情やジェスチャーも含む)④集中力⑤自発性(やる気)⑥記憶・学習を司る。
 子どもたちの教育の目標は、生きる力を作ることである。そのためには、自らがやる気になって考える、豊かな知識に基づく創造性が必要であり、すべて前頭前野を鍛えることである。そろばんをはじくことで前頭前野を育むことが実証されればすばらしいことである。
 20歳を過ぎると体力の衰えとともに脳も衰える。記憶のトラブル(会話の中に指示代名詞が増え、固有名詞が出てこない)、短期記憶の取り込み障害(冷蔵庫を開けた時、声をかけられたら、何を取りに来たか、忘れてしまう)が起こる。
 また、情動の制御ができなくなると、悲しい映画を見ると涙ぐんだり(感受性が豊かになったのでも、気がやさしくなったのでもない)、おこりっぽくなったりしたら、それは前頭前野が老化してきている証拠である。
 「認知症」は結果を表わす言葉であるが、前頭前野を鍛えることができれば、「アルツハイマー」と言われても家族とともに暮らせるかもしれない。
 この後、適切な情報処理・行動制御力を調べるストループテスト<青色で赤と出た文字を「あお」と色の名前で読む>をやって、会場は大いに盛り上がった。

そろばんでは『見取算』で前頭前野が働く

 脳の元気の元は何か。食事と睡眠である。脳はご飯(でんぷん)を食べないと働けない。いろいろなおかずを食べないと鍛えられない。
 神経細胞はブドウ糖のみで働く。しかし、神経繊維にはいろいろな栄養が必要である。だから朝ごはんをきちんと食べる。高齢者なら野菜・果物・豆類を多く摂取する。
 子どもの脳機能に良い食習慣は「朝食におかずが多い」、「味噌汁を食べる」、「野菜を食べる」、「手作りの割合が多い」、「夕食をたくさん食べる」ことである。
 どうすれば前頭前野を鍛えることができるか。単純な計算でも、複雑な計算でも筆算をやると前頭前野が働く。そろばんも見取算は前頭前野が働く。また、書くことが重要であり、コンピュータを使うと脳は働かない。
 「脳を使う」教育とは、「手を使う」教育である。
 前頭前野を鍛える三原則は
  ①「読み・書き・計算を行う」
  ②「コミュニケーションをとる(会話・旅行・遊びなど)」、「その場で褒める」
   (声をかける、よくできたねと声かけのできる先生がよい先生である)
  ③「手指を使って何かを作る」(料理・楽器演奏・絵を描く・字を書く・手芸・裁縫・工作など)
 である。

 最後に、アルツハイマー型の認知症患者の快方例がビデオで流され、脳科学のすばらしさ・可能性に驚嘆し、また、そろばんの有用性をアピールする方向性もアドバイスを受けた講演であった。

生徒に伝えるそろばんの歴史  

第55回全国珠算研究集会 研究発表

生徒に伝えるそろばんの歴史

  大阪府 大垣 憲造

歴史的にも貴重な「ローマの溝そろばん」(フランスの博物館所蔵)の写真を例に説明・大垣氏
※歴史的にも貴重な「ローマの溝そろばん」(フランスの博物館所蔵)の写真を例に説明・大垣氏

そろばんのルーツほかを児童に伝え、興味を持たせる工夫を

 古代メソポタミアの「砂そろばん」を起源とすると、そろばんは4,000年~5,000年もの長い歴史がある。これを生徒たちに分かりやすく伝えるには? 
 生徒が興味を持つには指導者の知識と伝え方の工夫がいる。
 例を挙げてみる。

名称の由来
 (呼び名には歴史的事実が多く詰まっている)
算盤
 この字は「そろばん」と「さんばん」の2つの呼び名があった。漢字で書けば同じだが、使い方が違う。
 ◎算木(計算する棒)
 ◎算盤(算木を置く盤・<布や紙>)
そろばん呼称の由来
 「中国語のスワンパンから」「揃盤(そろいばん)から」「珠がサラサラと鳴るサラバンから」など、いくつかの転訛説があるが『遡源語彙』の「ソルバン」が有力。
珠算
 1,800年ほど前、中国で徐岳という人が『数術記遺』という本を書き、その中に珠算という文字が出ているが、今のそろばんとは形が違う。
 団子玉が串にさしてあるそろばんは800年くらい前、張択端の『清明上河図』という絵巻に描いてあるのが有力な説である。
アバカス
 英語でそろばんは「アバカス(ABACUS)」と呼ぶ。その語源はギリシャ語のアバックス。(ABAX)さらに遡ればアバク(ABK)。アバクはヘブライ語で埃(ほこり)という意味らしい。
 アバカスの上に小石を置いて計算したが、この小石のことを「カリクル」と呼ぶ。これが計算すること「Caluculate(カリキュレート)」の語源である。

実物を活用する

 「百聞は一見に如かず」のとおり、子どもたちは「見る・触れる・そして考える」という順に指導すれば、よりよい効果がある。
 古いそろばんや珍しいそろばんの実物を見せながら話すと効果が絶大である。

外国にもそろばんがあるの?

 教室に中国やロシアなど外国のそろばんを展示しておき、生徒の質問に答える。
◎中国そろばんは天2地5で玉がダンゴ状なので、質問が多い。
 その歴史や現在の中国の競技会のことを説明する。 
◎ロシアそろばんは現地の言葉で「ショティ」と呼び、その歴史は古い。
 『10個の珠を全部右に寄せて、右から左へ動かしながら計算する』と簡単な加減の
 やり方を説明する。
◎西ヨーロッパのアバカスは東洋のそろばんと形態が違う。
 「線そろばん」が主流だが、唯一、ローマの「溝そろばん」だけがよく似ている。
 レプリカを見せながら『今から2,000年ほど前のローマでは今と同じように塾が
 あり、読み・書き・そしてそろばん(アバカス)も勉強していたらしい』と話す。

判明している事実を知らせる

 そろばんの歴史に関するエピソードは数え切れないほど多くある。どれを生徒たちに伝えようかと選択に迷う。もちろん、歴史の話にウソはいけない。現在のところ、判明している事実を教えなければならない。
 例えば、日本の絵に出てくるそろばんは埼玉県川越の喜多院にある『職人尽絵』(狩野吉信作)が初見だったが、それよりも前に描かれた愛知県名古屋氏博物館の『築城図』(1607年・城名・作者不明)が発見された。
 これまで紹介した例は、ほんの一部に過ぎない。そろばんの足跡を語ることによって、次代を担う大切な子どもたちが、一人でも多く歴史に興味を持ってくれることを切に願っている。

「わかる・できる・楽しい 『小学校のそろばん授業』のススメ」  

第55回全国珠算研究集会 特別発表

「わかる・できる・楽しい
 『小学校のそろばん授業』のススメ」


  岡久泰大 研修学教委員会委員 

「小学校ボランティアそろばん授業」に力を発揮する指導用スライド・岡久氏
※「小学校ボランティアそろばん授業」に力を発揮する指導用スライド・岡久氏

はじめに

 近年、そろばんが注目されている。子どもの学力低下を打開するための解決方法である基礎的・基本的内容の定着の見直しや珠算教育に対する有識者の支持、 ボランティア授業への取り組み、マスコミ等への積極的な働きかけや協力による影響が大きい。
 次期小学校学習指導要領では 算数科の「そろばん」は第3学年だけでなく、第4学年にも入り、複数年で指導される。
 これは私たちにとって大きな一歩であるが、 課題も浮上した。ボランティア授業に赴くことは意義があるが、 年々増え続けている小学校からの要請に応えることにも限界があり、その対応策が求められている。

小学校のそろばん授業に赴く意義

 指導者に緊張・新鮮・不安・研究心・充実・満足・喜び・感動・反省など多くのことを短期間に凝縮して経験させてくれる。時に過去に忘れて来たものを思い出させてくれたりもする。
 地域の教育力として近隣の小学校に貢献できるうえに、 教育関係者や児童にそろばんのよさを的確に伝える機会でもあり、最大の喜びの一つとしたい。

そろばん指導用スライド
  (*スライドを使用して詳しい操作方法を説明)

(1) 開発のねらい
 第3学年での「そろばん」の授業をさらに充実させるために, 児童にとって分かりやすく, 指導者にとって使いやすいことを目指した。(使用者によって自由に手を加えたりすることや多くの学校で活用できることを前提とするため、 プレゼンテーション用ソフトウエアを使って作成)
内容については次の点に留意した。

①算数科の中の「そろばん」であること
②授業の展開が自由自在にできること
③「たま」の動かし方をアニメーションで表現できること
④なぜ、そのような「たま」の動かし方になるのか、児童に考えさせる授業ができること
⑤スパイラル(反復)にも使用できること
⑥教科書に含まれていないこと(歴史的なことやいろいろなそろばんなど)も付加すること

(2)主な内容と操作方法
 「学ぼう」、「考えよう」、「練習しよう」の3つの項目に分け、この中から自由に選んで授業に活用できる仕組みである。

おわりに

 研修学教委員会では、小学校のボランティア授業をさらに充実・推進させるために 海外でのさらなるそろばん普及も視野に入れ, そろばんの基礎指導用教材としてスライドを作成した。
 今後は 珠算教育のますますの発展のため、 新しい学習指導要領に対応した内容に変更し、 日本の小学校だけでなく多くの国々で「わかる・できる・楽しい『そろばん授業』の実践」を可能とする教材作成を目指して研究していきたい。