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ボクシングチャンプ 西澤ヨシノリ氏と一問一答 

「東京・湯島天満宮ちびっ子そろばんまつり」の話題

そろばん学習、ボクシングともに大切 「日々の練習の継続」
ボクシングチャンピオン
 西澤ヨシノリ氏がそろばんっ子を激励


 今回の湯島天満宮「ちびっ子そろばんまつり」(平成18年2月11日 東京・文京区)にはすてきなゲストが参加していた。日本プロボクシングチャンピオン・東洋太平洋ボクシングチャンピオンの西澤ヨシノリ氏である。約1年前からそろばん学習を始めたという愛娘・由華さん(小2)の応援のため、家族で参加していた西澤氏に「そろばんとボクシングについて」ほか、質問をぶつけてみた。

ボクシング王者・西澤ヨシノリ氏とちびっ子

※ボクシング王者・西澤ヨシノリ氏とちびっ子


Q.そろばん学習を始める前とそろばん学習を始めた後で、由華さんに変化はありましたか?

A.大変数字に関心を持つようになり、とても計算が好きになりましたね。性格も以前より積極的になったように思います。

Q.ボクシングとそろばん学習の共通点をあげるとすると何でしょう?

A.視覚運動や集中力など、訓練を積むことによって、かなり上達すると思います。日々のトレーニング、さらにイメージトレーニングはボクシングもそろばん学習のどちらにも大切です。
「継続は力なり」ですかね。

Q.西澤選手の今までの経験から、今の子どもたちに伝えたいメッセージをお願いします

A.何事においても途中で投げ出さずに、頑張ってほしいと思います。そして、いつも「心の中に夢を持ち続けてほしい」と思いますね。

Q.今日の「チビッ子そろばんまつり」の感想をお願いします

A.今日の行事に参加する子どもたちの目を見ていると、みんな楽しそうに一生懸命やっています。私も今日のイベントを見て、勇気をもらいました。

(記者の感想)
 さすが日本チャンピオンと東洋太平洋チャンピオンを獲得した実績の持ち主です。落ち着きと風格は初対面の時に感じました。しかし、娘さんと一緒にすごしている時間は、やさしいひとりの父親でした。ビデオを撮り、愛娘に話しかける姿とリングの上の目はやはり違っていました。また、いつも傍らでやさしく見つめていた奥様が印象的なステキなご家族でした。

珠算優秀生徒の春 到来 

「サクラ サク」
 珠算技能が認められて大学推薦合格


 珠算学習を続けながら学業も優秀、そして長年続けたその技能が高く評価されて、見事、希望大学に推薦入学を果たした広島県出身の2人を紹介する。

呉大学看護学部 入学 豊島 香菜美さん

呉大学看護学部入学 豊島 香菜美さん

 4年後の看護士資格取得のために心を弾ませているのは豊島香菜美(としま かなみ)さん(広島女子商学園高等学校出身)。珠算歴は14年間で、平成16年7月に全珠連の珠算・暗算検定試験で両方とも十段位を取得した実力派。高校時代は珠算の練習に3年間、日曜・祝日も関係なく練習に明け暮れ、練習と練習との合間をぬって勉強したという努力家である。
 珠算を学びながら勉学にも頑張っている後輩たちへは「一つの目標達成までいろいろとつらいことがあるが、それを乗り越えたときの達成感はすばらしいもの。皆さんも珠算を通して継続することの大切さを学んでほしい」とエールを贈る。珠算から得たものは「技術だけでなく、大会等でいろいろなところに行き、他県の友達がたくさんできたこと」と語る。
 珠算の師である梶谷しげこ成子氏(広島県支部会員)からは「わが塾の宝。先生はいつも見守っています…。全商大会での団体日本一は長い、長い人生で、常にあなたの胸で輝いてくれることでしょう。誇りを持って大きく人生に羽ばたいてください」と励ましと感謝の言葉が述べられた。
 また、「お父さんが元広島県ナンバーワンの選手、そして自分の高校のクラブの監督ということで、その渦中にあって、努力、努力の毎日に頭が下がる思いです」と父娘の間での絆とプレッシャーをはねのけて、大学合格の栄冠を射止めたこともうれしそうに語っている。
 「いたってまじめ(だと思っています…)」と自分を評価する豊島さん。新たな道、医療分野のスペシャリストである看護士への入り口に立ち、「ナース香菜美さん」に向かっての夢は膨らむ。

一橋大学商学部入学 柏 美帆さん

一橋大学商学部入学 柏 美帆さん

 珠算の師である梶谷成子氏が「もう一人のわが珠算塾の宝物」と評する柏美帆(かしわ みほ)さんは珠算の名門・市立広島商業高校の出身。高校2年生の3月に全珠連暗算検定試験十段位合格、7月に珠算検定試験十段位の合格を果たしている。珠算歴は9年間。
 これまでの珠算学習を振り返って「大会・部活を通じて多くの方々と交流できました。私にとって大切な人ばかりです。いつも支えてくださる、そういった方々の期待に応えていけるように、これからも珠算を続けていきたいと考えています」と感想を述べている。
 そんな柏さんの後輩たちへのメッセージは「今、こうやって珠算ができることは当たり前のことではないと思います。この環境、一つひとつに感謝の気持ちを持ちながら、がんばってもらいたいです」との言葉が返ってきた。
 高校時代、珠算部に所属し、「練習で休みがなくても空き時間を上手に使って勉強に励んだ。何よりも、珠算を言い訳にすることがいやだった」というエピソードが彼女の「がんばり精神」を物語っている。
そんな「がんばり屋さん」の柏さんに対して梶谷氏は次のように言葉を贈る。
 「小学校から高校まで終始にこやかに、挫折にもめげずに、口癖のように『頑張ります』の一言。何度となく、その言葉に私や塾生が救われたことか。数々の珠算の足跡は『すばらしい』の一言で、小さいときからの夢を一つ一つ、かなえていく姿には感動です。これからも見守っています」
 本人は「自分でやる、と決めたら、最後までやり通さないと、気がすまない性格。だからこそ、ここまで珠算を続けられたのだと思います」と自分を分析している。大学では「企業の経営戦略、特にマーケティング戦略を学びたい」と抱負を語る。柏さんの「頑張ります」の言葉で、逆に、多くの人が「頑張り」のエネルギーを受けているにちがいない。

東京 第31回チビッ子そろばんまつり 

梅もほころぶ「そろばんっ子」の笑顔
 東京都文京区の湯島天満宮

 「第31回チビッ子そろばんまつり」

 春の訪れを告げる新春恒例のイベント「第31回チビッ子そろばんまつり」が2月11日(祝)、梅の花がほころび始めた学問の向上の神社・東京都文京区の湯島天満宮において盛大に行われた。(全珠連東京都支部主催)

小さな手でそろばん上達祈願

 季節まさに梅の香り漂う境内、開始時間前、朝早くからそろばんを片手に、108名の小学校2年生以下のチビッ子と保護者が、ぞくぞくと湯島天満宮参集殿に集まってきた。
 開会のことばに続き、山口支部長から主催者挨拶、賀藤理事長の来賓挨拶、湯島天満宮宮司の挨拶の後、ちびっ子たちはそろばんを持って、ちょっぴり緊張する中、本殿へ移動。そこでおはらいを受け、小さな手で柏手を打って、頭を下げ、そろばん上達祈願をした。
 この間、参加児童の保護者は、谷賢治氏(珠算教育研究所)による「そろばん学習の効用」のミニ講習会に聞き入っていた。

湯島天満宮・そろばん絵馬

※湯島天満宮・そろばん絵馬

かけ声威勢良く「そろばんみこし」登場

 その後、参集殿から境内へと場所を移し、数多くの一般参詣者が見守る中、日本一の桁数と言われている「283桁のそろばん」を使っての読上算競技、そして「そろばんみこし」が登場した。みこしの境内練り歩きの時は、ちびっ子たちだけでなく、一般参拝者も混じって「ワッショイ、ワッショイ」と掛け声と歓声で大賑わいとなった。さらに参加者全員が「そろばん・暗算」上達の願いを込めて、大空へと一斉に風船を飛ばした。     
 その後、参集殿に戻り、楽しいそろばんゲームとフラッシュ暗算、お楽しみ抽選会などが行われ、未来の日本一を目指す元気な声が最後まで響き、春の足音が聞こえる1日であった。なお、境内においては一般参拝者への「そろばんストラップ」作り講習と配付が行われ、大いに「珠算PR」に貢献した1日であった。

283桁そろばんで読上算

※283桁そろばんで読上算

そろばんみこし 境内練り歩き

※そろばんみこし 境内練り歩き

京都 北野天満宮・そろばんはじき初め 

初の試み 会場でフラッシュ暗算競技デモ
 絵馬に刻まれる「上達祈願」の文字


京都 北野天満宮・そろばんはじき初め

 平成18年1月5日、学問の神様で知られる京都・北野天満宮で「新春そろばんはじき初め」が全珠連京都府支部と京都珠算振興会の協賛で行われた。
 午前10時から江藤輝彦京都府支部長を先頭に参加生徒255名とともに、本殿で「そろばん上達・学習向上・合格祈願」のご祈祷を受け、代表として支部長が玉串奉典を行った。
 その後、絵馬所において今年の年男が選ばれ、元そろばん日本一の稲田さちさん(立命館大学院生)の模範演技が行われた。
 また、今回初の試みとなる参加者全員によるフラッシュ暗算競技のデモが行われた後、20名ずつに分かれ、長桁そろばんで読上算に挑戦した。参加者は指を暖めながら、一生懸命にはじき、会場からは「ゴメイサン」の声が飛び交った。また、参加者は天満宮から記念品として授与された絵馬に上達祈願の文字を刻んで、お願いをし、今年1年の技能上達を心に誓った。

京都・北野天満宮新春はじき初め

※京都・北野天満宮新春はじき初め

京都・北野天満宮新春はじき初め 絵馬

※京都・北野天満宮新春はじき初め 絵馬

奈良県橿原神宮でのそろばんはじき初め大会 

新春 そろばんっ子たちの笑みがこぼれる
 読上算に挑戦 絵馬に検定試験の合格祈願

 
奈良県橿原神宮でそろばんはじき初め大会

 1月3日、新春恒例のそろばんはじき初め大会が奈良県橿神宮において盛大に行われた。(奈良県珠算協会、全珠連奈良県支部主催)
 集まった子どもたちは神宮宮司のお払いを受けた後、それぞれが絵馬に珠算学習の上達や昇級・昇段試験の合格祈願などを書いて奉納し、長桁そろばんの前に3名ずつ並び、読上算に挑戦した。
 子どもたちはパチパチと答えをはじき出して元気よく挙手。正解を答えると「ご名算」の声とともに、周りから拍手が送られ、子どもたちの顔に笑みがこぼれた。
 また、パチとパッチーの着ぐるみ人形とともに記念写真を撮る家族連れの姿が多くみられた。
 イベントで陣頭指揮を執った増田泰治奈良県支部長は「今回で9年目を迎えるこの催しも年々、参加者が増え、関係者もうれしい悲鳴をあげています。当日は風が冷たく、寒い一日でしたが、広い境内でのそろばんPRは、大いに意義のあるイベントであったと思います。これからもなお、いっそう、珠算人が心を一つにし、あらゆる努力をして、ますます発展に努めたいと思っております」と当日の手ごたえを話している。

奈良・橿原神宮はじき初め1

※奈良・橿原神宮はじき初め1

奈良・橿原神宮はじき初め2

※奈良・橿原神宮はじき初め2

手作りのそろばんで上手に指導 

新・海外珠算教育事情2 ハンガリー

手作りのそろばんで上手に指導 

千葉県 佐久間美江子氏からハンガリーの珠算教育見聞記
 
 平成17年4月、鈴木巌氏(大阪)を中心としたメンバー11人で、ハンガリー珠算教育使節団に行ってきました。雄大なドナウ川の流れを横目に、ハンガリーで行われている珠算教育の視察をすることができました。日本から伝わった珠算教育は、現在、小学校を中心とした算数教育の一部として約400校に取り入れられているそうです。

 自然体で行う授業

 子どもたちが使うそろばんはハンガリーで作られたプラスチック製のものが主流で、日本のものとは違って音はあまりよくありませんが、子どもたちが夢中ではじいている姿は、何とも言えないくらい輝いていました。
 実際にハンガリーの小学校で授業を視察して驚いたことは、とても静かで自然体だということです。授業の始まりには教室に音楽が流れ、それを聞いた子どもたちはリラックスして、授業に集中しているように見えました。
 日本で小学校2年生にあたる授業では、2桁の足し算・引き算にそろばんを使い、その意味や仕組みを目で見ながら考え、学び取っていくことを中心に進められていきます。

手作り指導用そろばん

※手作り指導用そろばん

目で見て考えるそろばん学習

※目で見て考えるそろばん学習

 盛大に全国珠算競技大会

 翌日にハンガリーの珠算全国大会を視察することができました。
 日本のように競技としての珠算教育はまだ歴史が浅く、300人程度が集まった大会も実力テストのような雰囲気が感じられました。ですが、一生懸命なその姿は日本の子どもたちと変わりなく、このままでは日本が追いつかれる日も近いかもしれません。
 
 ハンガリーのそろばん教育生みの親・育ての親と面談

 そして、今回の訪問では、ハンガリーの珠算教育を語るときに欠かせない二人にお会いすることができました。この地に珠算教育を初めて伝えたマルカリアン・キミエ先生と、その教えを受けて、そろばん教育を各地に広めたマーチャシュネ先生です。
 お二人にはそろばん未経験の国に、そのよさを伝えていく難しさや国内でそろばんを売っていないため、ありあわせのもので作った手作りそろばんの話などをしていただきました。
 そろばんという文化が世界中に広がり、切磋琢磨され、学力を向上させ、世界中の子どもたちが楽しいつながりを持ってくれるよう、いつも願っています。

実り多きハンガリー視察

※実り多きハンガリー視察

第47回全ブラジル珠算選手権大会 

第47回全ブラジル珠算選手権大会 開催
  ブラジルそろばんチャンピオンの栄冠は
   土井ただしダニロ選手(バストス)


 今回で47回目を数える全ブラジル珠算選手権大会は平成17年11月6日、サンパウロ市ビラ・マリアナ区にあるサンパウロ天理会館ホールを会場に190名余りの選手が参加して行われた。(主催・ブラジル珠算連盟 斉藤良美会長)

ブラジル大統領からの祝電 披露

 午前9時、開会式が行われ、ブラジル国家斉唱,選手宣誓(米谷あきおエンリッケ選手)と続き、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ ブラジル共和国大統領の祝電が披露された。また、主催者を代表して斉藤会長が日伯両語で挨拶し、開会式を終了した。
 直ちにCクラス(7級から10級)から競技が開始され、総合問題、読上算、読上暗算と続いた。競技が終わり、それぞれのカテゴリーで表彰を受けた後、総合優勝者の米谷昭雄エンリッケ選手(ジャグアレ学園)に全国珠算教育連盟理事長杯が贈られた。
 Dクラス(11級から15級)が始まる前に、過去の優勝者や有段者の招待選手らによる読上算と読上暗算のデモンストレーションが行われ、ハイレベルの問題の正解に会場から大きな拍手が送られた。また、パソコンを使ったフラッシュ暗算も披露された。
 Dクラスは見取算のみの競技が行われ、結果が分かるまでの間にゲームをし、早く正解した選手らに賞品が贈られた。各級の優秀者が表彰され、午前の部が終了した。
 昼食をはさみ、午後1時からBクラス(4級から6級)の競技が開始された。総合問題、読上算、読上暗算が行われたあと、加藤ジョエル杯の問題に真剣に取り組んだ。

 各カテゴリーでの表彰後、総合優勝者(堀田こういちマルセーロ選手・ピラチニンガ芳洋)に同理事長杯が贈られた。

 そのあと、招待選手らによるフラッシュ暗算のデモンストレーションが行われた。徐々にレベルがアップされ、最後は七段の問題に挑戦した。十段の問題を披露した時は、あまりの速さで数字が現われるため、会場からは大きなどよめきが起こった。
 最後にAクラス(1級から3級)と段位のクラス、それに招待選手による競技が一緒に行われた。今年から総合問題に見取暗算(段から10級まで)が加えられたため、競技時間がアップしたが、選手達はそれぞれ問題に集中し、真剣に取り組んだ。総合問題、読上算、読上暗算と続き、加藤福太郎杯争奪戦が行われた。 

 カテゴリーごとに表彰され、今大会のブラジルそろばんチャンピオンの栄冠は土井ただしダニロ選手(バストスそろばん連盟)の頭上に輝いた。また、同理事長杯も土井選手が獲得した。
 ただちに閉会式が行われ、斉藤会長が挨拶に立ち、選手達の健闘に敬意を表したあと、保護者を始め、教師、お手伝いの方々に対して労いの言葉があり、第47回全伯珠算選手権大会を大盛況のうちに滞りなく終了した。

ブラジルそろばんチャンピオン
 土井ただしダニロ選手(バストスそろばん連盟)

加藤福太郎杯
 田中まゆみスージー選手(バストスそろばん連盟)

加藤ジョエル杯
 藤野えみ選手(パウリスターノそろばんセンター)

全国珠算教育連盟理事長杯 獲得選手
 米谷昭雄エンリッケ選手(ジャグアレ学園)
 土井ただしダニロ選手(バストスそろばん連盟)

Cグループの選手達

※Cグループの選手達

道しるべ 

社会的スキルを育てる珠算塾Ⅱ

名古屋大学大学院環境学研究科心理学講座 八田教授

※名古屋大学大学院環境学研究科心理学講座 八田武志教授

 「珠算塾では珠算技能だけでなく子どもの社会的スキルを育てていることをもっと主張してよいのではないか」という趣旨の文章を6年前にこの新聞(全国珠算新聞)に書いた。しかし、考えていることが正確に伝わったか怪しい。当時考えたことは今でも妥当と思うので、再度与えられた機会を使って別な言い方で私の考えを伝えておきたい。
 私の提言は、これまでのような「そろばんを習うと算数の学力に有効」というような訴えだけでなく、もっと別な珠算塾の「売り」があるのではありませんか、ということである。私もそろばん学習が知的機能、特に右脳機能との関連が強いことなど、子ども自身に関わる効用を指摘することが多かった。これらの指摘は、子どもの学力育成が親のもっぱらの関心であったことが時代の背景にある。しかしながら、もはや子どもの学力を伸ばして有名大学に入ることが親の第一の望みではなくなってきた。よい大学を出て、有名会社に入っても将来の保障はないことが知れ渡ったからである。
 最近の親の関心は、子どもが成長して社会に適応できるかという基本的な問題に移った感がする。「オタク」にならないだろうか、異常性欲や攻撃衝動からとんでもない社会問題を起こさないかが、勉強ができるかどうかよりも大事な時代になったのである。経済的に豊かな社会になった日本が醸成してきた病理がマグマのように噴出しつつあると思える。
 最近の脳科学の進歩から、ヒトが人間になるのは古い部分の攻撃や性衝動を生じさせる脳部位の働きを新しい部分の脳(前頭葉内側部)が制御できるようになることが明らかとなってきた。また、この制御は他者とのコミュニケーション場面を多く経験することで育つことが明らかとなって来ている。大勢の子どもが集まり、会話をしたり、先生の言うことを聞いたりする経験はこの制御の訓練をしているのに他ならない。そろばんを塾で習うことは学力を育てることにつながるが、同年齢や異年齢の人間とコミュニケーションを経験できる場所という点にもっと重要な意味がある。
 私が塾の経営者であったなら、「そろばんを習って学力を伸ばそう」ではなく、「そろばんを習って、ヒトから人間になろう」と言うに違いない。(名古屋大学大学院環境学研究科心理学講座教授)

*この欄は珠算教育に理解を示し、珠算の学術的価値について研究されている大学教授ほか学識経験者によって構成される全珠連学術顧問の方々からご寄稿いただいています。