YELL~社会の第一線で活躍するそろばんOBからの応援メッセージ~  


YELL  VOL.12
~社会の第一線で活躍するそろばんOBからの応援メッセージ~
from 原田 孔平(作家)

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<略歴>
昭和24年生まれ
私立桐朋高校卒
その後、珠算活動を経て、作家へ
著書「浮かれ鳶の事件帖」他。
時代小説を手がけ、著書の随所にかつての珠算指導者としての知見を盛り込み、当時の寺子屋での珠算指導などの記述がある。


 私が珠算界を離れてから随分の時が経った。なのに、私の夢の中には、未だに珠算を教えていた頃の自分が出てくる。子供たちとじゃれ合っているシーンもあれば、遊園地に生徒を置き忘れ、慌てて戻ったことなど、夢は忘れかけていた記憶さえ思い出させてくれる。目覚めた後で「そんなこともあったなあ」と懐かしさを覚えたりもするが、中にはかなりのほろ苦さを味あわせてくれるものもある。それは一人しかいなかった生徒を3ヵ月間教えていた頃の記憶だ。入学随時とは謳っているものの、現実問題として生徒は月初めにしか入ってこない。つまり月初めが過ぎてしまえば、その月の生徒数は現状のままであり、下手をすれば減少することも起り得る。一がゼロになっては塾の存在価値はない。私の珠算生活は、まさに切れかかったロープにしがみつく格好でスタートを切った。

 ところが、どうやら貧乏神には、幸運の女神という不釣り合いな彼女がいるらしく、貧乏神が目を離した隙に、小粋な女神が私に微笑みかけてくれた。たった一人の塾生であった8歳の女の子は我慢強く、隙間風が吹き抜ける貧乏神好みの塾を健気にも支えてくれた。4ヵ月目になり、生徒数が3倍になったときの感動は、いまだに忘れることができないものとなった。不思議なことに、このときの感動を再現する夢はいまだに出てきてはくれないが、それはおそらく、私に憑りついていた貧乏神が、私を見限る前に嫌がらせの呪いをかけていったためと思われる。

 かくして私は、珠算人の仲間入りをしたわけだが、実際に足を踏み入れてみると、珠算界というのは思いのほか悪くなかった。たとえ入会したばかりの新米教師でも、先輩方は一応、一国一城の主と見て、敬意をもって接してくれたからだ。無論、多少の序列はあったが、世間一般でいわれるやかましやの上司といったものはほとんど存在しなかった。そのうえ、所得も人並み以上にあったことから、当時の私には「珠算教師という職業は、なんとも気儘(きまま)で旨味のあるものよ」と一人悦に入る感さえあった。

 それが錯覚であると感じ始めたのは、昭和60年代に入ってすぐの頃だ。日本中がバブル景気に沸く中、珠算界がその恩恵に浴していないことに気づいたからだ。その後、貿易赤字に苦しむ米国が強引なドル高対策に乗り出したことから、我が国のバブルは弾け、未曽有の不景気が日本中を席巻した。これにより珠算人口は急激に減り、誰もが少子化を理由にあげた。だが私は、そうは見ていなかった。確かに少子化の影響もあるが、減少の要因としては、バブルの好景気に酔った日本人の目が海外に向けられ、一時的に珠算のような日本古来の習い事を軽視したことの方が大きいと捉えた。珠算にとってなによりの不運は、バブルが崩壊した後の緊縮財政が、さらなる追い打ちをかけたゆえだと。

 それでも私は、珠算が必ずかつての栄光を取り戻すと信じていた。その根拠を問われれば、こと人間の能力を最大限に引き出すという点において、珠算ほど優れた習い事は他に例を見ないからであると、私は当時も今も、きっとそう答えるだろう。昨今、都内の塾では生徒数が緩やかながら増加傾向にあると聞く。また、一部の幼稚園では、珠算を取り入れているとも聞いた。これは非常に明るい話題であり、かつ画期的な出来事であると思う。

 なぜなら日本古来の習い事というのは、珠算に限らず、書道、柔剣道に至るまで、入門時期や入塾年齢に拘らないという特性を持っているからだ。おそらくは寺子屋時代の名残なのだろうが、入学時期が定まっていないということは、卒業式も無いということになる。つまりは習得期間が提示されていないのと同じだ。これは現在の保護者たちの目にはどう映るだろう。少子化の影響で、親たちは子供の教育により神経を使うようになった。塾に通わせるにもできるだけ多くの情報を集めたがるというのに、肝心の習得期間が提示されていなければ、保護者たちに敬遠される要因ともなりかねない。一昔前ならば、2級、3級の資格を取るまでという一定の基準が保護者側にもあったが、今はさほど、その資格に社会的な価値はない。がっかりさせたようで申し訳ないが、やはり保護者が求めるのは、一定基準の計算力を身につけることと、それに要する習得期間の提示だろう。

 最後に、私が一番懸念している問題についても触れておきたい。それは珠算に限らず、あらゆる分野において、その道の最高技能取得者は尊敬され、優遇されなくてはならないということだ。最高技能取得者とは、言わずと知れた十段位既得者たちだ。同時に、彼らはもれなく幼児教育体験者でもある。そんな彼らに、これまで彼らがしてきた努力に相応しい報酬を用意し、それなりの地位を与えることができれば、珠算界はもう一つ上のステップへと進めるのではないだろうか。幼児教育は難しい。私が珠算界にいた頃にも幾度か取り沙汰され、その都度講習会も行われた。だが、すでに指導的立場にいる教師に、それを学ばせることは無理があった。今にして思うことだが、その頃、十段位既得者に珠算認定技能教師の資格を与え、言葉は悪いが、彼らを貸与する方法があったとしたら、珠算界は今とは別の様相を呈していたかもしれない。将来、どこかの塾が習得期間を区切って幼児教育に乗り出したとき、認定教師として週一回でも彼らが派遣されるならば、カリキュラムを組むのも容易くなるはずだ。珠算は必ずかつての栄光を取り戻すと信じているが、それには珠算が時代に受け入れやすくする努力も必要だ。珠算界を去った私が言うのも口幅ったいが、今も珠算を支え続ける骨太の珠算人がいる限り、栄光の日々はそう遠くはないだろう。

<過去の記事>
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みちしるべ 子どもが夢中になる教材 

 みちしるべ
子どもが夢中になる教材
from 向山 宣義(全珠連学術顧問/算数・数学教育合同研究会会長) 

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 「ピタゴラスクラブⅡ」(武蔵野市教育委員会主催)という土曜教室で、算数の授業をさせていただいている。対象は4年生40名。5年目になる。

 授業は、数学的な見方・考え方を育てることを目的とし、6回で各90分。各回の教材は、毎年度、四つか五つ新たなものにしているが、一つだけ、子どもたちの人気が高く変えていない教材がある。『スパイロラテラル』という図形教材である。

 図1に示すように、一つの点から、右に1進み、右に90度向きを変えて2進み、さらに右に90度向きを変えて3進む。これを「3の形」と約束する。

【図1】

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 「3の形」は繰り返し描いてくと、図2のように元の点に戻る。

【図2】

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 進む長さを変えたらどうなるだろうと疑問をもたせ、図3のように、進む長さが、1だけのものを「1の形」、1と2のものを「2の形」、1と2と3と4のものを「4の形」、・・・とする。

【図3】

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 こうして子どもたちは「1の形」から、「元に戻るだろうか?」と思いながら、一面に格子点のある作業シートに描いていく。

  「4の形」以降では、曲がる向きや長さを間違える子もいるが、次第に正しくできるようになり、描く作業に夢中になっていく。

  「4の形」では、「戻らない!」という声が出てくる。授業開始から50分ぐらいで「11の形」までを目標に描いていく。描いていく中で、「〇の形」の〇の数と、戻る、何回で戻る、戻らない、との関係が分かってくる。そこで、「きまりを見やすくしよう。」と表に整理してみる。すると、同じリズムの繰り返しのようにきまりが見える。

 子どもは、何かきまりがありそうだと感じる作業的な活動を好む。それとこの教材の人気は関連すると思うが、それだけでない。曲がる角度や辺の長さを変えてみるといった発展的な扱いもできる。高学年なら証明にも取り組める。

 子どもが、知らず知らずに夢中になり、考える楽しさを味わえる授業づくりに励みたい。

※連盟機関紙「全国珠算新聞」第625号(2017.9)に掲載

関東地方連合会 第57回珠算指導者講習会 

関東地方連合会第57回珠算指導者講習会

 6月11日、全珠連関東ブロック指導者講習会が新宿の「ハイアットリージェンシー東京」において盛大に開催されました。参加者は145名でした。

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 関地連委員長である田中耕吉東京都支部長の挨拶に続き、全珠連歌斉唱のあと午後12時半から講習が開始。

 第一講座は全珠連理事長の梶川眞秀先生による「全珠連の過去・未来」の講演でした。

 内容は全珠連創立以前の珠算界から今日ある全珠連検定の試験制度の歴史や珠算団体の結成、また連盟の現状そして今後連盟が目指す道を講演され、受講者はまさに歴史の重みを感じるとともに全珠連に対する熱い思いを覚えました。

 第二講座は東京都支部会員で宮本暗算研究塾MaX塾長の宮本裕史先生による「開発者が語る『フラッシュ暗算指導法』」でした。
 
 「フラッシュを練習すると暗算が上手くなり、暗算を練習すると弾きが上手くなる。暗算力をつけることで弾きを極めたい」と話されました。

 指導内容は勿論ですが、指導者としての宮本先生の魅力に引き込まれました。

 講習会終了後には懇親会が行われ、会員の親睦も深めることができ有意義な指導者講習会となりました。

第99回日数教大会 於:和歌山市 

第99回日数教大会 於:和歌山市

 8月8日(そろばんの日)、和歌山市で開催された第99回全国算数・数学研究大会幼稚園・小学校部会の学習指導法分科会において、(公社)全国珠算教育連盟・珠算教育研究所と算数教具部会による研究発表が実施されました。

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 大会での研究発表は幼・小、中、高、高専・大学の各部門に分かれて行われ、幼稚園・小学校部会は10分科会100件以上の発表がありました。

 珠算教育研究所と算数教具部会による本年の発表は、昨年度に引き続き分科会形式で実施され、ポスターセッションによる発表を含めて17年連続27回目となりました。

 分科会での発表は「数の相対的な大きさをよりよく理解させる指導(2年次)」と題し、理論と実践の2部構成で行われました。

 第1部は、大場一輝氏(東京都鷹南学園三鷹市立中原小学校長)と落合誠一郎氏(東京都板橋区教育支援センター)が担当し、算数科の授業での「数や量に関する指導上の課題」について発表されました。

 第1部を受けて、第2部では小原光治、栗田幸雄両委員が、そろばんを活用した課題解決の具体例を発表しました。

 当日は、台風5号が和歌山を通過直後の大会となりましたが、多くの参加者があり、活発な意見交流も行われ、関心の高さが感じられる大会でした。  

<開催案内>日本そろばん資料館企画 歴史から学ぶ珠算講座 -子供たちの目の色が変わるそろばん授業- 

<開催案内>
日本そろばん資料館企画
歴史から学ぶ珠算講座
―子供たちの目の色が変わるそろばん授業―

<要項>
開催日:平成29年10月1日(日)
会場:全国珠算教育連盟「日本そろばん資料館」
主催:(公社)全国珠算教育連盟
申込先:全国珠算教育連盟東京事務局(TEL:03-3875-6636)
定員:各講座15名
締切:平成29年9月25日(月) 
受講単位:1時間1単位

<講座内容>
午前の部(10:30~12:30)
順番を決める並べ方の不思議と数の性質の面白さ~暗算力の養成~
講師 谷賢治学芸員

午後の部(14:00~16:00)
亀井算のすべて
講師 太田敏幸学芸員

※日本そろばん資料館の見学・説明30分を含みます

スポットライト2017 思い入れのある逸品
谷が選んだこの1冊
「日本人の数学感覚」下平和夫著
太田が斬るこのそろばん
「芸州(広島)そろばん」塩屋小八・作

三井寺の算額奉納 「そろばん発祥の地」に息づく先人の遺産 

三井寺の算額奉納 
「そろばん発祥の地」に息づく先人の遺産

 算額(さんがく)とは、江戸時代中期頃の日本で始まった風習で、神社や寺院に奉納された和算の絵馬のことです。和算は江戸時代鎖国をしていた影響で、独自の発展を遂げることができました。先人は、神社や仏閣の額や絵馬に、和算の問題や解法を記して奉納し、数学の問題が解けたことを神仏に感謝し、益々勉学に励むことを祈願されたといわれています。特に平面図形に関する問題が多く、土木工事や徴税などに用いられたということです。

 また、市民が学力向上などを願って寺社に奉納された算額の問題に挑戦することもあったといわれています。絵馬には難問だけを書いて奉納する者も現れ、その問題を見て解答を算額にして奉納する者もいました。人の集まる神社仏閣を数学の発表の場とし、市民の和算の向上をはかりました。 大津市の三井寺では、1828年(文政11年)に奉納された算額が残っています。

 数学の授業で「和算」を取り入れている縁で、算額の文化を伝えようと、立命館守山中学校(守山市)と同志社中学校(京都市)の3年生が、合同の算額奉納や交流会を2014年に開催しました。 優秀な「算額」は観音堂に永年奉納され、展示されます。今後もお互いに和算の研鑽を積んで交流をはかり、親睦を深めるということです。

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生徒が奉納した算額

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整然と並んだ英知の結晶

 日本独自に発達した数学「和算」、今後も先人が残してくれた貴重な文化財として、学問に対する真摯な心得を示唆してくれる算額を、いつまでも後世に伝えることが大切ではないでしょうか。

 「そろばんの発祥地」である大津にお越しの際には三井寺へも足を運んでいただき、算額の見学もしていただきたいと思います。

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滋賀県大津市にたたずむ三井寺